10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

【6】大好きな街を離れたあの日から、探しもの

親の転勤で転校をした。大好きな友だちと別れ、12年間家族で過ごした大好きな街を後にしたあの日からー 何かを、永遠に手につかめない何かを、ずっと探してるんだ。求めてもいない。ただずっと、探してるんだ。 ずっと探してる。いつだって。 夕方に香る火の…

【5】転校の別れのさみしさが、17年後に時間差でやってくる

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。私が転校先に馴染めなかったことが原因で両親の意見の食い違いにつながり、家族が壊れた。 さみしいとか、帰りたいとか、感じてしまったら、新しい世界で生きていけないから。帰りたいと思うことで、家族を悲し…

【4】転勤による転校、帰る場所がない

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。 幼稚園から小学校へ上がる時、小学校から中学校へ上がる時、中学校から高校へ上がる時、と、人脈が引き継がれていく。 自分をもともと知っていて受け入れてくれる人がいるから、新しい人間関係にチャレンジで…

【3】転校先に馴染めないことで、家族を壊した

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。新しい街は閉鎖的な雰囲気で、転校先の学校は排他的な空気感があることに対し、子どもながらに違和感を感じていた。転校先に馴染めず、家に帰って口から出る言葉は「帰りたい」だった。 毎日帰りたいという娘を…

【2】転校生、今この瞬間に、この世界にたった一人

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。 新しい街は閉鎖的な雰囲気で、転校先の学校は排他的な空気感があることに対し、子どもながらに違和感を感じていた。 クラスは、誰を信じていいのかわからない。部活は、小学校のクラブの記憶を思い出して涙が…

【1】10年ごしの時間旅行

小学校卒業と同時に親の仕事の都合で転校しあの街を出て以来、大好きな街に帰ることはなかった。 あの街に行くと、帰りたくなってしまうから。大好きなみんなと、一緒にいたくなってしまうから。記憶に足を取られずに、新しい世界で生きていかなくてはならな…

155- エピローグ

彼女の転職後、彼女がどこでどうしているのか、ぼくは知らない。 わかっていた。最初から。 きみが探し求めているものは、僕はどうしたって届けられない。 どうしたって手に入らない。 それでも彼女は、そんな思いを胸の奥に抱えながらも、 何もなかったかの…

154- きみが望んでいるものは

きみの書いた、一冊のノートをぼくはそっと閉じた。 彼女が望んでいるものは、きっと昔に帰ることじゃない。誰かじゃない。どこかじゃない。何かじゃない。

153- 10年ごしの時間旅行

見覚えのある、いや、鮮明に記憶の中にある、窓から見えている景色。心臓が高鳴る。電車がゆっくりと減速していく。1秒がとても長く感じる。プシュードアが開く。ホームに足を踏み入れたその瞬間、何かが奥深くから込み上げてきて、涙が溢れ出す。 よく知っ…

152- 子どもの頃に置いてきたもの

私が置いてきたものは、大人になって取り戻せないものだ。埋められない。そう、代用が効かない。この感情と、ずっと共生していくしかない。でも、苦しい。

151- 探しもの

何かを、永遠に手につかめない何かを、ずっと探してるんだ。求めてもいない。ただずっと、探してるんだ。 ずっと探してる。いつだって。 夕方に香る火の燃えるバーベキューの匂いイルミネーションがたくさんの夜景住宅街の昼下がりの香り晴れた日、青空の下…

150- いま、もしも願いが叶うのなら

もしも…もしも…もしも願いがひとつだけ叶うのなら… もう一度… もしも、もしもいま、願いがたった一つだけ叶うのなら、あの頃にひとときだけ時間を戻してほしい。 何かのまちがいが起こって、時空が歪んで、一瞬だけ、時間が戻ってほしい。 1日だけでいい。1…

149- 家族の楽しい時間を返して

夕暮れ時のオレンジ色の空と土草の匂いに、キャンプを思い出す。それだって、夏休みの何ヶ月も前から電話して、なかなか繋がらない中予約をとって。子どもたちの楽しみのために。 クリスマスのシーズン。鮮やかに彩られたクリスマスの飾り。知らない曲でも、…

148- だれか…

大人になって思うこと。あれから15年経って思うこと。 誰か…抱きしめてくれればよかったのに。 どんなに優しい笑顔も、どんなに勇気の出る言葉も、いらない。ただそっと、ただそっと抱きしめてくれる人がいればよかったのに。どうしてあの時、誰も助けてくれ…

147- 消えるトラウマ

あれだけ近くにいたのに、それが、1日にして、1日して全部消えてしまう。なくなってしまうのが、怖い。

146- 十数年経ってもそれでもまだ…

どうして私は、こんなにも引きずっているの?もう16年も経つのに、どうして?喉から手が出るほど触れたくても、もう戻らないんだ。 転校というよくある話で、なぜ自分はここまで敏感に繊細に感じ取って、深くトラウマになったのか?もっと鈍感だったら、世の…

145- 記憶

幼稚園の帰りに母と手を繋いで寄った公園も、父と母に手を握られ、真ん中でジャンプしていた歩道も、ふざけながら帰った通学路も、 この香り、どこかで感じたことがある気がする…その季節の香りがトリガーとなって、ふとした瞬間に、まるで昨日のことのよう…

144- 小さい頃から自分を知ってくれている人

転勤族の子どもである私には、幼い頃から自分を知ってくれている人がいない。 今は、祖父母と両親が、小さい頃から自分を知ってくれているけれど、時間が経つと、小さい頃の自分を知っている人が、この世界からいなくなっていく日が来るのだろう。そう、この…

143- 両親が心配

例えば、両親が還暦のお祝いをいつか迎えたとして、それを友だち家族と祝うなんて事もない。お祝い事も、自分たちだけで。大変なことがあっても、自分たちだけで。 この先両親がもっと年老いていった時に、どうするのか。地域に、近くに、頼れる人なんていな…

142- 共生

この感情とは、一生この気持ちを持ったまま生きていくんだと思う。 どれだけ居心地の良い環境にいて、どれだけ楽しくても、心を突き刺すような一種のさみしさのような感情は、消えない。

141- 辛いことがあった時に

本当に辛い時に、命の灯火が消えそうな時に、電車に飛び込んでしまいそうなほど辛い時に、涙でいっぱいの時に、ぎゅっとしてくれるような、温かい場所がないのだ。帰りたい。 どこに帰るの?

140- 本当は人が好きなの

本当はしたかったこと、いっぱいあった。親の還暦だって、友だち家族とにぎやかにお祝いしたかった。結婚式だって、幼なじみみんな呼びたいし呼ばれたい。本当は、本当は…近所の友だちの家に入り浸って、プライバシーもなんもなく、全部筒抜けでかっこいいと…

139- 絶対に手に入れられないもの

ある程度大きくなるまでずっと同じ場所に住んでいる人。幼馴染。家族ぐるみで付き合う人。小さい時から知ってくれている近所の人。 そのまままの自分を受け入れて、自分の長年の変化を知ってくれていて、とにかく、安心していられる場所、人たち。 私がどれ…

138- さみしいという感覚を取り戻した時に

さみしいという感覚を思い出した頃には、もう遅い。人と繋がっていたい。温かさに触れたい。でも、一人で生きた時間が長すぎて、どうしていいのかわからない。人肌が恋しい。キューっとなる。でも、これまでそんなに深い関係性になるのをずっと避けてきたか…

137- 時間差

大人になって、いろいろな出来事を経験して、ある出来事をきっかけに、不意に二度と開かないように蓋をしてたはずなのに、"ある日をかわきりに大好きな人たちに二度と会えなくなってしまった"トラウマを思い出してしまって、声をあげて泣いた。まるで子ども…

136- 私だって

そういう場所がほしかった。全部言葉にしなくても、説明しなくても、自分のことを理解してくれている人がいる。何も言わないけど、あたたかい眼差しを投げかけてくれている人がいる。そんな環境がほしかった。 新しい場所に行くたび、何も言わなくても、多少…

135- 言わないと伝わらない

言わなくてもわかってくれる、察してくれる、が、まったく通用しない世界を生きてきた。 自分の状態を、状況を、相手から見えていない部分を、全部言語化して、伝える必要があった。

134- 深く入っていけない

深く、入っていくのがしんどい。入られるのもしんどい。こうやって、深入りする前に、場所を変えてら転々と、ふらふらと一人で生きて行くんだろうな。 新しい環境にいくと、馴染まなきゃって、気を張って、疲れるけど、その負荷を自分にかけることが、デフォ…

133- 普通への憧れ

自分がどれだけ馴染もうとしても、よそ者だった。周りは小さい時からずっと一緒に過ごしている。これまで共有してきた時がちがう。みんなと同じにはなれない。 だから、普通になりたい、大多数と同じ側にいきたい、なぜなら、疎外感を感じたくないからーそん…

132- 最近見た夢

大人になってから見た夢で、最近見た夢で。 広い古民家のようなところにいて。床や柱は焦げ茶色。照明は少し落とし目で。 そこには、新しい家具があって。そろえられた家具とインテリア。きっと誰かのために、誰かを想ってそろえられた品々だ。 そんな期待は…