10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

120- 長い付き合い方がわからない

人間関係を長く続けるやり方がわからない。リセット癖ではないけれど、ごちゃごちゃとなる前に、ある程度入ったら、新しい環境を求めて出ていってしまう。人として何か欠陥があるのではないだろうか。 小学校を卒業してから、長いこと同じ環境にいたことがな…

119- 一度出た場所には戻れない

大人になってからの話。 帰る場所がない私は、大切な思い出は綺麗なまま置いておかないと、心の拠りどころがなくなってしまう。 だから、一度出た場所には帰れない。 もし今いる場所を卒業し、新しい場所へ移った際、懐かしむ気持ちからそれまでいた場所に立…

118- いろんな世界を知っている人たち

海外で生活していたり、世界中を旅していたり、あちこち転々としていたり。いろんな価値観を知っていて、だからこそ “みんな同じ” という前提がないから、ひととのちがいに寛容で。自由で。そんな人たちと一緒にいると、心が躍った。 自分が絶対に手に入れら…

117- 放浪癖

愛する人が、離れて行ってしまうのが怖いの。だから、離れてしまう前に、自分から離れるの。だから、一つの場所にいられないの。転々としちゃうの。 一度出た場所に、帰りたくないのは、一度得た場所を、失いたくないから。

116- 強がり

全く新しい環境に飛び込んでみたり、いろんな世界を見たくて、新しい場所に挑戦している。ここ数年だと、2年おきに仕事の環境も、住環境も、360°環境が変わって。 すごいね、行動力があるね、突き詰められる力があるね、そう言われる。 そうじゃないんだ。本…

115- 長期的な関係

長期的な関係の築き方がわからない。短期間なら得意だ。新しいコミュニティを静かに見て、誰が安心か、味方になってくれそうな人は誰か、危険はありそうか、どの人と仲良くすれば人と繋げてもらえそうか、この人はどのような会話のペースなのか、この人はど…

114- 一人で頑張るクセ

一人で頑張ることをもう14年もしてきてしまったから。一人で頑張らないという方法がわからない。人を頼ったり甘えたりする度合いがわからない。やり方がわからない。 何かあっても、一人で解決しようとしてしまう。解決できてしまう、ようになってしまった。…

113- 人を好きになれない

どこか、一歩引いて、冷静に見てしまう。損得勘定で見てしまう。自分がこの環境で生き残っていくために、この人とは付き合っておいた方がいい、 そんなように。 何か得られるものがなければ付き合う気が起きないし、自分が提供できるものがなければ申し訳な…

112- どこへ行ってもよそ者

あの日から、どこに行っても疎外感を感じるようになっていた。高校を卒業してから、進学や就職を機に色んな場所に住み、色んなコミュニティに属してきた。 居心地の良い場所もあった。 でも、どこに行っても本当の自分の居場所ではないように感じてしまう。…

111- スキル

すでに出来上がった集団の中に、ポンと新しく入っていくこと。自然に馴染んでいくことに長けた。 その集団での力関係を瞬時に見分けて。この人は声をかけておいた方がいいな、この人はこういう会話のペースなんだな、この人はこういう言葉が好きなんだな。 …

110- 生きるか死ぬか

今、この環境で、うまくやれなくて、居場所がなくなったらどうしよう。今目の前にある環境にうまく溶け込めるかどうかに、生きるか死ぬかがかかっている。だって、うまくいかなかった時に、帰る場所がないから。目の前の場所で生きられないと、いる場所がな…

109- 評価され続ける人生

転々としていると、自分の次の居場所を獲得しなければならないから、自分を魅力的な人間だと周りに思わせて、選んでもらう必要がある。 すでにできている輪の中に入って受け入れられて生き残るためには、自分を選んでもらうことにメリットがあることを示さな…

108- 一人で生きていかなくては

誰も傷つけないために、そして自分も傷つかないために、一人で生きていけるようにならなくては。 困ったことがあっても、自分で調べて解決できるように知識をつけ、サービスに頼れるように収入を得て、武装した。周りに誰もいなくても、一人で生きていけるよ…

107- 消えないで

遠ざかってゆく。消えないで。記憶が消えたら、私は消えてしまう。 そんな昔のことを大切に抱えているのは私だけで、みんな忘れていくんだ。私しか。本当にあったと言って。想像じゃないと言って。なくならないで。お願い。

106- ひとり

生まれてから小学校までは、そのままの自分だった。その自分しかいなかった。そのままの自分をまるまる受け入れてくれて、愛してくれたのが、幼少期にお世話になった人たち。その、まだ物心つかないような時期から私のことを知ってくれていた人たちが、もう…

105- この世界から愛する人が消える

連絡、くれてたのに。年賀状、くれてたのに。自分から、去った。失いたくなかった。 共有できない時間が増えていって、知らない間に、どんどん遠い人になって、離れていくのが怖かった。 心の底から愛する人が、この世界から消えることが怖かった。 愛する者…

104- 空白の時間

あのころから、時間が止まってしまっている。自分の中で。あの時の、音も空気も香りも色も、全部覚えていた。鮮明に。まるで、昨日起きたことのように。私には私の時間があって、みんなにはみんなの時間があって、みんなは、みんなの時間を生きている。もう…

103- 幼馴染が遠ざかっていく

そこには、昔からの幼馴染がいる。中学〜高校〜大学〜社会人と、どんどん共有できる時間が減り、お互いの知らない時間(とき)が増えていく。あれほど、あれほど近くにいた人たちなのに。あれほど、何をするにも、どこに行くにも一緒で、毎日もみくちゃにな…

102- 会いたくない

あれだけ近くにいた人が、共有する時間が少なくなって、知らない人になっていくのが怖い。そこがなくなってしまったら、私は生きていけない。 正確には、それまで温かいと、生きやすいと思っていた環境が、大切に思っていた人たちが、大好きと思っていた人た…

101- 私がいけない

私が馴染めなかったから。弟は馴染めたのに。父の職場で、同じように転勤でお子さんを転校させた同僚。そのお子さんは馴染めているのに。普通に生活しているのに。 私が馴染めなかったせいで、私がみんなができるようにできなかったせいで、家族を壊したんだ…

100- 大切な人の人生を壊した

中学入学と同時に新しい家になった時に、家具や家電も新調された。大人になって、新しい家のカーテンが、高級カーテンだったと知った。 大人になった今、知る。 家を決めるのを、大きな決断をするのも、家具やインテリアなど一つ一つ多くの選択肢の中から一…

99- 後悔2

あなたは、 死ぬほど後悔をしたことがありますか?

98- 悪夢にうなされて3

ある日私は夢を見た。小学校の校庭。広い校庭の真ん中、しゃがみこんで膝をついて、手から血が出るくらいにぎゅっと砂をにぎって、泣き叫んでいた。 「あーーーーーーーーーーー!!!!」 叫んで泣いていた。悔しいのか後悔なのか苦しみなのか。何とも言え…

97- 永遠に出られない

でも、私に見えている景色はもう存在はしないものなんだ。実際には時が流れていて、私が知っているみんなはもういない。 あの日から時間が止まってしまっていて、まるで昨日のことのように鮮明に思い出せるけれど、私は子どもの時のままだけれど、みんなはも…

96- ふつうの夢にうなされて

中学・高校の6年間は、帰りたいと思わない日はなかったけれど、帰りたいと思わない瞬間はなかったけれど、大人になってからは、帰りたいと思ったり、もといた街での暮らしに思いを馳せたり、そのようなことはなくなっていた。日々急がしさに追われ、目の前の…

95- 時間が止まる

あの日から、時間が止まってしまっている。幼き日々の、音も空気も香りも色も表情も全部覚えていた。鮮明に。まるで、昨日起きたことのように。 学校の校庭も、太陽の光を反射する砂も、裏庭に咲き誇る桜も、みんなが集まるくつ箱も、明るい茶色の教室の床も…

94- 後悔

あの日に戻って、ありがとうとごめんねと大好きを言いたい。 何も言わずに出てきてしまったこと。伝えられなかった、本当の思い。 みんなが大好きだったから。悲しい空気にさせたくなかったから。信じたくなかったから。 友だちに、習い事の先生に、友だちの…

93- 普通じゃない

中高生で青春を過ごして。私にはその“普通”がない。 中学高校の6年間は地獄だった。一日たりとも楽しいと感じた日はなかった。 修学旅行に体育祭に部活に休み時間に、みんなが楽しそうにしていても、私も表面上は笑っていても、心の中では大泣きで、いや感情…

92- 写真がトラウマ

写真は苦手だ。笑わなきゃ、笑顔を見せなきゃ、という強迫観念に駆られる。人から楽しくないの?と思われないようにしないと。そう考えれば考えるほど顔の筋肉は固まり、いつも怖い顔をして映っている。いまだに写真は苦手だ。

91- 世界でたった一人

あの時に感じた、この世界で自分は一人なんだというはっきりとした感覚が、残っている。いまだに顔を出す。 ブラックホールのような悲しさとさみしさと切なさが入り混じった感情に吸い込まれる。 たとえいまが楽しくても。 それとは次元がちがって、言い表し…