10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

60- 生き地獄

学校にいる間の、時間が長くて長くて、1週間を乗り越えるだけでも一苦労で、ずっとカレンダーを見ていた。時間割を見ていた。時計を見ていた。1秒が、とてつもなく長く感じる。 年間カレンダーを毎日確認した。あと1ヶ月で、一学期の半分が終わる。半分まで…

59- 大切なものを奪ったものは

自分だった。 自分で壊したんだ。

58- 夜が明けて

それからの数年間は、罪悪感との戦い。 一夜明けて。次の日。心ここにあらずの本当の意味を知る。初めての感覚だった。学校の先生には、授業聞けと怒られた。その授業で先生に注意された1コマ以外は、全くその日周辺の記憶がない。きれいにすっぽりない。ど…

57- ごめんなさい

ごめんなさい私が悪かったですすべて私が悪かったですみんなのこと、何も考えずに自分が帰りたいからって思う気持ちそのまま言って帰りたい帰りたいってごめんなさいごめんなさいもう言いませんもう帰りたいって絶対に言いませんごめんなさいごめんなさい人…

56- 心臓が止まった日

父の誕生日のお祝いをしたその日だった。みんなご飯が済み、両親は晩酌でもしていたのだろうか?思い出せない。この日のことは、断片的にしか思い出せない。 私も…母も…父も……みんな…泣いていた…… 夢のマイホーム購入…新しい家に来てからずっと情緒が安定し…

55- 父と母の関係が悪化

私が新しい学校に馴染めないことをきっかけに、日に日に父と母の関係が悪化していった。 とはいえ、子どもの前では絶対に出さなかった。普通通りだった。子どもが寝てから。話し合いがなされるのは。それでも、勘の鋭い子どもだった。学校のストレスで感覚が…

54- 母の心の防衛

死んだように学校で息をして、やっと一日が終わって家に帰れば、口から出る言葉は「帰りたい」だった。毎日帰りたいという娘を目の前に、母は日に日にまいっていった。やっぱり、この子を転校させない方が良かったんじゃないか。あのままいさせてあげた方が…

53- 孤独の最果て

クラスも、部活も、このコミュニティーも、あのコミュニティーも、全部全部ダメだった。ここまで人と合わないものなのか?私が変になってしまったの? ここまで波長の合う人がいないなんて、もうこの先、一人も私と合う人はいないのだろうか? 小学校の時、…

52- 中2の社会の理不尽

先生はクラスの気の強い子たちの肩を持って、弱い子たちは容赦なく怒る。保身に走る。自分のミスを、子どもたちがさも悪いかのように怒って。 生徒の個人情報が載っている書類を、教卓の上に置き忘れていたのはあなただ。 それを見つけ、何の書類だろうと覗…

51- 野に咲く花のように

中学2年生になった。相変わらず、裏切りあいの世界で。この街は、みんなこんな感じなのか?明日は我が身。同じグループの子たちと一緒にいても楽しいと感じることはないけど、自分が生きていくためには、付き合い続けるしかない。居心地は良くない。だけど、…

50- 悲しむ母を見ていられない

学校から帰ると毎日「帰りたい」と言った。私の口から出る言葉はすべて「帰りたい」だった。 そんな子どもの様子を見て、母が日に日にいくのをまいっていくのを感じた。かんの良い子どもだったので、母が陰で泣いていたのも知っていた。日に日に弱っていく母…

49- 転校先で生きていくには


本当に、本当に一人なのだ。だから、今いるクラス、部活、今目の前にあるコミュニティーで、 たとえ自分の心が死んでも表面は上手くやっているように見せるしかないのだ。 そうしないと、ダメな烙印を押されて、人脈が広がっていかない。 だって、本当は属す…

48- 元いた世界からの音信

親づたいに、友だちづたいに、元いた街の友人たちから手紙が届いたり、行くはずだった中学校のクラス分けの表示で、私の名前を探してくれたりした子たちの話が耳に入る。 何も言わずに出ていってしまうなんて、私は、なんてことをしてしまったのだろう。

47- 訴え

学校から帰ると毎日、「帰りたい」「学校に行きたくない」と口にした。母「そのうち馴染めるから」「馴染もうと思わないといつまでも馴染めないよ」それでもさんざん訴えた。世界の急変に私の心が追い付かなかった。私も命がけだった。なんとか今いる世界を…

46- 楽器の音が聴けなくなる

小学校の時、吹奏楽クラブに所属していた。これも大切な思い出のひとつ。それぞれの奏でる音がひとつに合わさって、そこにある空気を揺らして爆発させて、その振動じかに伝わって鳥肌が立つーーあの感じが大好きだった。 だから、中学校に入っても、吹奏楽部…

45- 帰り道の裏切り

毎日、家が近いAとBと3人で一緒に帰っていた。Aは家が近く、親同士の交流もあった。Bは会話のペースが合い、何かと話が盛り上がることも多いと思っていた。ある日の帰り道、もうすぐ互いの家に着くという時だった。「あなたはそこでちょっと待ってて」Aが、…

44- 誰かわからない

他に話題を提供できないのかと思うくらい、人のうわさ話ばかりしている中学生女子。 「○組の△△がかっこいい」「□部の◇◇がかっこいい」 名前を聞いても、誰が誰だかわからない。ついていけない。「なんか情報ないの?」と言われるけど、同じクラスの人の名前…

43- 涙のいずみ

帰りたい。自分の部屋が出来たその日から、毎晩泣いた。ふとんに入ったあと、声を殺してひそひそ泣いた。どうしようもなく涙がこぼれた。 涙ってほんとうに枯れないんだ。

42- 兄弟と比べないでくれ

家に帰って、「学校に行きたくない」「帰りたい」と母に言う。「弟は新しい環境でも楽しくやってるでしょ?」そりゃ小学生だし男の子だし、環境がちがう。条件もちがう。私は中学生。弟は小学生。小学校では、転校生は一種のアイドルだ。物珍しさで注目して…

41- じゃんけん

体育の授業で、グーとパーで分かれるように指示が出る。グーとパーに分かれるタイプのじゃんけんは、地域によって掛け声がちがう。突然始まったじゃんけんに、ちがう地域からの転入生の私は手を出すタイミングがわからず手を出しそびれた。理由も聞かれずに…

40- カルチャーショック

言葉のちがいで疎まれたり、生活のちがいを指摘されたり、都会から来たことで嫌味を言われたり、そんなことは普通にあった。 しかし、もといた街が大都市のそばだったため人の入れ替わりが多くて、いろんな人が共存していた場所であり、世の中にはいろんな人…

39- 親のプレッシャー

新しい学校に早く慣れてほしいという気持ちが強かったのだろう。 「友達できた?」「楽しくないなんて気のせいだよ?」「楽しもうとしないから楽しめないんだよ?」「自分から声をかけないから、輪が広がらないんだよ?」 プレッシャーだった。

38- 帰りたい

帰りたい。帰りたい。帰りたい。 みんながいる世界に帰りたい。温かいみんながいる世界に帰りたい。 そんなこと現実的にできないと、子どもながらにわかっていた。それでも、授業中も、休み時間も、お弁当の時間も、帰りの会の時間も、どの瞬間も、”帰りたい…

37- 透明

ここまで完全にグループに分かれていて、一人でいる人にクラス破門くらいの厳しい視線が向けられ、新しい人がすでに出来ているグループに入ろうとしようものなら、ものすごい非難を浴びる。転校生の私が取れる手段としては、声をかけてきた人と仲良くなるほ…

36- 中学生女子

新しい街の、新しい学校の排他的な雰囲気と、中学生の不安定さと、そこに中学女子特有の陰湿さがプラスされる。3人グループでいれば、いずれ1人対2人に分かれ、 誰か1人が誰かを無視し始めると、それがクラス全体に広がり、 一度でも無視されたことがあるな…

35- クラスの裏切りあい

中学生で友人となると、小学生に特有の幼なじみの感じではなく、社会的な友人となる。 新しい街の、新しい学校の排他的な雰囲気にプラスして、中学生特有の尖っていて不安定な要素が加わる。グループ内での裏切り合いが激しかった。クラス内のどのグループも…

34- すでに出来ている輪の中に入っていく

新しい中学校のクラスは、まるで見えないバリアでも張られているかのように、グループできっかりと別れている。中学入学と同時の転校だと、転校生だと気づいてもらえないため、誰からも声をかけてもらえることはない。さいわい、声をかけてくれた人がいて、…

33- 中学入学と同時の転校、初日

新しい中学校は、2つの小学校から構成されていた。中学入学と同時の転入だと、「”新しい”転校生」だと紹介されることはない。それがゆえに、転校生だと気づいてもらえない。つまり、A小学校の人からはB小学校から来たと思われるし、 小学校Bの人からは小学校…

32- 新しい街の違和感

中学生になって、初めて転校を経験した。 新しい街に入り、その瞬間にわかった。ここは私の居場所じゃない、と。ここは、ちがう、と。ここにいてはいけない、と、直感的にわかった。 大人になって様々な街での暮らしを経験して、子どもの頃のあの時の直感は…

31- もう二度と自分が生きていた世界には戻れない

初めてまったく知らない街につれて行かれた時の情景を、いまだに覚えている。 まったく別次元の世界に来てしまった。もう元いた世界には二度と戻ることはできない。 大人になったら、新幹線で移動したり、メールで連絡を取ったりできるとわかる。 でもそんな…