10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

【2】転校生、今この瞬間に、この世界にたった一人

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。

新しい街は閉鎖的な雰囲気で、転校先の学校は排他的な空気感があることに対し、子どもながらに違和感を感じていた。

クラスは、誰を信じていいのかわからない。
部活は、小学校のクラブの記憶を思い出して涙が出てくるからやめた。
家は、これ以上「帰りたいつらい」と言ったらまた家族を悲しませてしまう。
習い事は、引っ越しをきっかけに全部やめてしまった。
幼稚園や小学校からの友だちたちはもうこの世界にはいない。

どこにも私の居場所なんてない。

 

今この瞬間、この世界に、自分は一人なんだ。


 

中学生ということもあり、クラスは裏切りあいの世界だった。はみ出したら終わり。冷たい空気が漂う。
そんな環境で、誰のことも、小学校の時のように、心の底から友だちだと、大好きだと思える人が一人もいなかった。

引越し先の街にいた中高6年間、誰も愛せなかった。
全部、偽りの友情、見せかけの友情だった。うそをつく心が苦しかった。

 

今この瞬間、この世界に、自分は一人なんだ。


 

大好きな街に住んでいる友だちから、連絡が届く。年賀状が届く。
会いたいと言ってもらっているのに、自分から、絶った。

失いたくなかった。

共有できない時間が増えていって、知らない間にどんどん遠い人になって、離れていくのが怖かった。

今いる新しい街には、心から愛せる人がいない。一人もいない。
でも、昔住んでいた街には、大好きな人たちがたくさんいる。

心の底から愛する人が、この世界から消えることが怖かった。
知るのが怖かった。環境が変わったからではなく、自分が変わってしまったからだったら?もう一生、人を愛せない身になってしまっていたら?
愛する者が消えてしまったら、この世界に、本当に一人になってしまう。

だから、幼き日の記憶を、そのまま置いときたい。塗り替えたくない。
それがないと、私は立てない。