10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

137- 時間差


大人になって、いろいろな出来事を経験して、
ある出来事をきっかけに、不意に二度と開かないように蓋をしてたはずなのに、
"ある日をかわきりに大好きな人たちに二度と会えなくなってしまった"トラウマを
思い出してしまって、声をあげて泣いた。まるで子どもの頃に戻ったみたいに。
子どもの頃に泣けなかった分を、時間差で、今。

時間が戻ってほしい。
あれほど近くにいたのに。
もう二度と戻らない時間。

ある日をさかいに、もう一生会えないんだ。
それまでは、あれだけ近くにいたのに。
もう、一生、会えないんだ。

離れないで、いかないで。

あれから何年も経つのに、もう大丈夫だと思ってたのに、
傷は癒えてなんかなかったんだ。

なくらないで。

このスコンと抜ける感じが、ダメだった。

苦しい。助けて。

ほんとは、一人さみしかった。
抱きしめてほしかった。
そばにいてほしかった。
そばにいたかった。
お願い。
一緒にいて。

もう大丈夫って思ってたのに、ぜんぜん大丈夫じゃなかった。

さみしい
いやだ
別れたくない
離れたくない
やだ
いやだ
いやだ

帰りたい
みんなに会いたい
ぎゅってして
抱きしめて

いやだ



新しい世界に、自分を知らない人たちのところで、居場所を獲得していくことに、味をしめて。
自分のことを深く知ってくれている人の中にいるそのあたたかさを本当は知っていることに、蓋をしていたのに、思い出しちゃった。

ずっとほしくて、
でもほしいと思ってしまうと、
家族が不幸になってしまうから、
その感情に蓋をして。

だからこんなに苦しい。

やっぱり、みんなに会いたい。
もう一度だけ。
あの日に戻って。

いまだに、喪失感のトラウマで苦しんでいるの。
もう16年も経つのに。

みんなと別れたあの日から、景色が、いや世界が、変わってしまった。
そうこの感覚、ある日をかわきりに、世界が変わってしまうこの感覚、
昔感じたことのある、この感覚。

触れてしまった。
蓋をし続けていたあの感情に。

無条件に、受け入れてもらえる場所が、ほしかった。

誰かと一緒にいたい。
そばにいたい。
これまでの16年はなんだったんだろう。
人が恋しい。
本当はそういう人間なのに、
そう感じないようにして。
これだけつらい思いをしてきて。
なんだったんだろう。

誰も、誰も愛せなかった。
誰も、救いの手を差し伸べてはくれなかった。
誰かに、助けてほしかった。

仕方ないじゃん。
一人で生きていくしか、なかったんだもん。

人なんて信じられなくなった。
近づかない。
不用意に自分を見せない。
人から遠ざかって。

だから離れていく。
そうしてまた一人になる。ずっと一人。
あの日から。