10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

高校生

82- さみしいという感情を失う

誰かを傷つけるくらいなら、一人で生きていくほうが楽。誰かから傷つけられるくらいなら、一人で生きていくほうが楽。 行ってみたかったごはん屋さんに行くのも、映画を観るのも、ウィンドウショッピングするのも、見たかった景色を見るのも、一人でやればい…

81- 泡のように

誰も悲しませることなく、ふわっと消えてしまえたらと思う。 いまこの瞬間、その場から消えてしまいたいと思う。 ふっ て、 泡のように、水蒸気のように。 だれにも迷惑をかけずに、いまこの場から消えられたら。 みんなの記憶の中から、私に関する記憶だけ…

80- あれからの習慣

いつからだろう…来るはずのないメールを待つようになった。 別に誰かを想定しているわけではない。特定の誰も想像していない。 小学校の時の友人からメールが届くとでも思っているのか、まさかそんな。誰も私のメールアドレスなんて知らないから、そんなはず…

79- 愛せない

もう、誰も。愛せない。小学生の時のように、心の底から友人と思えるあの感覚が感じられることは、この先、永遠にないのだろう。じゃれあって、もみくちゃになって、そんな距離で相手の温度を感じて、そんな感覚が得られることは、もう永遠にない。

78- 悪夢にうなされて

母が自殺した。ベランダから飛び降りた。 私は愕然としていた。もう、戻らない。その温もりは。 目が覚めて、私はがたがたと震えていた。唇は真っ青だった。怖い。怖い。怖い。 夢じゃなくなる日が来たらどうしよう。日に日におちていく母を目の前に、夢の光…

77- ストレスで音に過敏

夜、世界は寝静まった頃、どこからか響く音やフローリングが軋むような些細な音に、ハッと起き上がる。玄関の鍵が閉まっているのを確認した。部屋のドアが開かないように手で押さえながら、床に這いつくばってドアの下の隙間から覗いて誰もいないことを確認…

76- 日に日に荒れてゆく母

母は、ため息をつくことが多くなった。子どもの前では気丈に笑顔で振る舞ってくれていたけど、マンションだから。フロア地続きのマンションだから。部屋や廊下に音が反響して、聞こえてしまう。 そして、母はこっそり、たばこを吸うようになった。父が仕事に…

75- ついに表情を失う

高校生の時だった。突然、顔の筋肉が固まるようになった。全部粘土で固められてしまったような、そんな感覚だった。だから笑おうとしたら、頬の筋肉がピキピキとなり、痙攣しているような感覚を覚えた。自然に笑うことができなくなった。 笑っていないことが…

74- ついに言葉を失う

高校に入ってからも、罪悪感にさいなまれる日々。自分なんていなくなったらいい。自分が憎い。自分を殺したい。 声をかけてきてくれる人がいる。こんなのと仲良くしない方がいい。申し訳ない。声をかけてもらうのが。仲良くしてもらうなんて罪悪感だ。私とい…

73- 頼むから、私から逃げて

自分が言ったことで、傷つく人がいるのなら。私は何も言わなくていい。もう、いい。 家族に対する罪悪感に苛まれる日々。自分を殺したいと思った。心の底から。憎しみ以外の何の感情も湧かない。自分なんていなくなったらいい。自分が憎い。自分を殺したい。…

72- 自分を殺したい

大切なものを奪った自分を、この手で。 一度口に出した言葉は、もう消せない。壊したものは、もう戻せない。もう取り返しがつかないところまできてしまっていた。もう時間は、永遠に戻らない、一生。 最悪でした最低でした。自分を殺したかった。自分が、自…