10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

150- いま、もしも願いが叶うのなら


もしも…もしも…
もしも願いがひとつだけ叶うのなら…

もう一度…

もしも、もしもいま、願いがたった一つだけ叶うのなら、
あの頃にひとときだけ時間を戻してほしい。

何かのまちがいが起こって、時空が歪んで、
一瞬だけ、時間が戻ってほしい。


1日だけでいい。1時間でもいい。
たったひとときでいい。
そのあとに起こることなんて何も知らず、
ただ大切な人たちに囲まれて、ただ愛して、愛されて、あのあたたかい空気の中で、
もう一度だけ、もう一度だけ、息を吸いたい。

1日でいい、一瞬でもいい。
あの温もりを、
お父さんも、お母さんも、私も、弟も、何も知らずにただ幸せだったあの頃を、
あの温もりの中にもう一度だけ。