10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

【6】大好きな街を離れたあの日から、探しもの

親の転勤で転校をした。大好きな友だちと別れ、12年間家族で過ごした大好きな街を後にしたあの日からー 何かを、永遠に手につかめない何かを、ずっと探してるんだ。求めてもいない。ただずっと、探してるんだ。 ずっと探してる。いつだって。 夕方に香る火の…

【5】転校の別れのさみしさが、17年後に時間差でやってくる

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。私が転校先に馴染めなかったことが原因で両親の意見の食い違いにつながり、家族が壊れた。 さみしいとか、帰りたいとか、感じてしまったら、新しい世界で生きていけないから。帰りたいと思うことで、家族を悲し…

【4】転勤による転校、帰る場所がない

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。 幼稚園から小学校へ上がる時、小学校から中学校へ上がる時、中学校から高校へ上がる時、と、人脈が引き継がれていく。 自分をもともと知っていて受け入れてくれる人がいるから、新しい人間関係にチャレンジで…

【3】転校先に馴染めないことで、家族を壊した

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。新しい街は閉鎖的な雰囲気で、転校先の学校は排他的な空気感があることに対し、子どもながらに違和感を感じていた。転校先に馴染めず、家に帰って口から出る言葉は「帰りたい」だった。 毎日帰りたいという娘を…

【2】転校生、今この瞬間に、この世界にたった一人

親の仕事の都合で、中学入学と同時に転校した。 新しい街は閉鎖的な雰囲気で、転校先の学校は排他的な空気感があることに対し、子どもながらに違和感を感じていた。 クラスは、誰を信じていいのかわからない。部活は、小学校のクラブの記憶を思い出して涙が…

【1】10年ごしの時間旅行

小学校卒業と同時に親の仕事の都合で転校しあの街を出て以来、大好きな街に帰ることはなかった。 あの街に行くと、帰りたくなってしまうから。大好きなみんなと、一緒にいたくなってしまうから。記憶に足を取られずに、新しい世界で生きていかなくてはならな…

155- エピローグ

彼女の転職後、彼女がどこでどうしているのか、ぼくは知らない。 わかっていた。最初から。 きみが探し求めているものは、僕はどうしたって届けられない。 どうしたって手に入らない。 それでも彼女は、そんな思いを胸の奥に抱えながらも、 何もなかったかの…

154- きみが望んでいるものは

きみの書いた、一冊のノートをぼくはそっと閉じた。 彼女が望んでいるものは、きっと昔に帰ることじゃない。誰かじゃない。どこかじゃない。何かじゃない。

153- 10年ごしの時間旅行

見覚えのある、いや、鮮明に記憶の中にある、窓から見えている景色。心臓が高鳴る。電車がゆっくりと減速していく。1秒がとても長く感じる。プシュードアが開く。ホームに足を踏み入れたその瞬間、何かが奥深くから込み上げてきて、涙が溢れ出す。 よく知っ…

152- 子どもの頃に置いてきたもの

私が置いてきたものは、大人になって取り戻せないものだ。埋められない。そう、代用が効かない。この感情と、ずっと共生していくしかない。でも、苦しい。

151- 探しもの

何かを、永遠に手につかめない何かを、ずっと探してるんだ。求めてもいない。ただずっと、探してるんだ。 ずっと探してる。いつだって。 夕方に香る火の燃えるバーベキューの匂いイルミネーションがたくさんの夜景住宅街の昼下がりの香り晴れた日、青空の下…