10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

136- 私だって


そういう場所がほしかった。
全部言葉にしなくても、説明しなくても、自分のことを理解してくれている人がいる。
何も言わないけど、あたたかい眼差しを投げかけてくれている人がいる。
そんな環境がほしかった。

新しい場所に行くたび、
何も言わなくても、多少不器用でも、わかってくれているなんて、そんな甘えは通用しないから、ずっと気を張って生きてきた。

でも、周りの多くの人々は、そうじゃないんだね。
守ってくれる場所があって。
何も言わなくても不器用なところを当たり前のように理解してくれる人がいて。
そんなハードに生きてない。

誰かに吐きたい、この苦しみを。
私だって、あたたかい中に生きたいんだ。
そのぬくもりも心地よさも強さも、誰よりも知っている。
同時に、それを失うことの怖さも。