10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

56- 心臓が止まった日


父の誕生日のお祝いをしたその日だった。
みんなご飯が済み、両親は晩酌でもしていたのだろうか?思い出せない。
この日のことは、断片的にしか思い出せない。

私も…母も…父も……みんな…泣いていた……

夢のマイホーム購入…新しい家に来てからずっと情緒が安定しない子ども…子どもの苦しむ姿を見て弱っていく母…
家庭に仕事の事情を持ち込まず、どれだけ大変な時でもそんな表情を一切見せなかった父が…

「もう限界だ」

きれぎれの記憶の中で泣いている母の声…
「この子の前でそんなこと言ったら、心がつぶれてしまう…」

私は、フローリングに座り込んでいた。

心臓が止まった。
私は、取り返しのつかないことをしてしまった。