10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

37- 透明


ここまで完全にグループに分かれていて、一人でいる人にクラス破門くらいの厳しい視線が向けられ、新しい人がすでに出来ているグループに入ろうとしようものなら、ものすごい非難を浴びる。
転校生の私が取れる手段としては、声をかけてきた人と仲良くなるほかはない。
チャンスは一回きり。
一回しかチャンスはないのだ。だって、このチャンスを逃すと、どこにも入れない。このチャンスを逃したら終わり、新しいこの世界では、生き延びられない。
この一回のチャンスを成功させられるように、自分を抑えて人に求められるように振る舞う。
相手が何を求めているのか、どう言ってほしいと思っているのかを瞬時に見極め、その通りの言葉を言う。
自分がどうという主張をしていたら、そこで認めてもらわなかったらもう終わり。
食うか食われるかの世界。
向こうには、小学生の時からの知り合いがいて、でもこちらには誰もいない。一人だ。
数にはかなわない。
だから、相手が欲しいと思っている言葉をかけるように、相手が欲しいと思っている反応を取るしかないのだ。

自分が自分を捨てて、どんな色にでもなれることが、落とされた環境で生き残るためには必要だった。