10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

51- 野に咲く花のように


中学2年生になった。
相変わらず、裏切りあいの世界で。
この街は、みんなこんな感じなのか?

明日は我が身。
同じグループの子たちと一緒にいても楽しいと感じることはないけど、自分が生きていくためには、付き合い続けるしかない。
居心地は良くない。
だけど、まったく知り合いがゼロである自分が中学校のクラスというこの狭い世界で生き抜いていくには、声をかけてきてくれた人と仲良くなるほか道がないのだ。
小学校からの友人がいない私にとって、部活をやめた私にとって、今目の前にいる人と仲良くなるほか生き残るすべはないのだ。
自分を抑えて、相手が求めている反応を見抜いて、相手が求めている言葉を投げかける。
相手も、自分も、偽ってでも。

すごく苦しい。まだ13歳で、本当の自分を完全に封印して、偽りの自分を毎日毎秒演じ続けるのは。

でも。
私は、ここで上手くいかなかったら、いく場所がない。
そうでもしないと、小学校からの理解者がいないこの世界で、やっていく手立てがなかったんだ。
そうでもしないと生き残れなかった。
裏切りあいのこの世界を。

学校に行けなくなったら、両親が悲しむ。
転校させなければよかったと、両親を悲しませたくはない。
だから学校に行くしかない。
学校に居場所を作るしかないんだ。いや居場所がなくたって、そこで時間が過ぎるのをひたすら耐えて待つしかないんだ。

本当に、
時間が経つのが、本当に遅く感じた。
何十年も続いたように感じた。
そのくらい長かったんだ。

それでも、
大雨も、長い長いトンネルも、いつかは終わるんだって、抜けられるんだって、
”野に咲く花のように” を心の中で流して、自分を奮い立たせていた。
いまはトンネルの中にいるんだって。

時には暗い人生も トンネルぬければ夏の海
時にはつらい人生も 雨のちくもりで また晴れる

トンネルを抜ければ、光り輝く砂浜と、透き通るような青の海が見えるって、そう信じて。
いまは大雨が降っていて大嵐だけど、きっとまた晴れるって…

信じてた。
砂浜が見えるまで、命が持つかわからなかったけれど。