10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

82- さみしいという感情を失う


誰かを傷つけるくらいなら、一人で生きていくほうが楽。
誰かから傷つけられるくらいなら、一人で生きていくほうが楽。

行ってみたかったごはん屋さんに行くのも、映画を観るのも、ウィンドウショッピングするのも、見たかった景色を見るのも、
一人でやればいい。

そうすれば、うまく周囲に溶け込めるように、そこからはみ出すことに怯えて暮らさなくてもいいんだ。

そうすれば、誰かを傷つけないように、もう誰かを悲しませないように、気を遣わなくてもいいんだ。

行ってみたかったごはん屋さんに行くのだって、わざわざ人を誘わなくても、
自分で行けばいいんだ。
ごはんを食べている間に何を話そうかなど、考えずに、ごはんの味を楽しめるんだ。

新しい映画だって、人と観に行くと、感想を合わせないととか、テンションを同じにしないととか気を遣わないといけないけれど、
自分で観に行けば何も気にせず思い切り映画の世界に浸ることができる。

一人で行動することに、
そして体験で味わった感動を人と共有できないことに、
何とも感じなくなっていた。