10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

78- 悪夢にうなされて


母が自殺した。ベランダから飛び降りた。

私は愕然としていた。
もう、戻らない。その温もりは。



目が覚めて、私はがたがたと震えていた。
唇は真っ青だった。
怖い。怖い。怖い。


夢じゃなくなる日が来たらどうしよう。
日に日におちていく母を目の前に、夢の光景が蘇る。からだから一斉に血の気が引く。

夢の光景が蘇るたびに全身の血を抜かれたような感覚に何度も襲われた。何年も襲われた。

その夜が明けた日から、母が家の中のどこにいるかを常に気にするようになった。
音がしなくなるたび、心臓を冷たい手でつかまれた心地がした。