10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

76- 日に日に荒れてゆく母


母は、ため息をつくことが多くなった。
子どもの前では気丈に笑顔で振る舞ってくれていたけど、
マンションだから。
フロア地続きのマンションだから。
部屋や廊下に音が反響して、聞こえてしまう。


そして、
母はこっそり、たばこを吸うようになった。
父が仕事に出ていて、私が部屋にこもっているような時に。
母の心がすさんでいるのが、幼心にもわかった。