10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

105- この世界から愛する人が消える



連絡、くれてたのに。
年賀状、くれてたのに。
自分から、去った。
失いたくなかった。

共有できない時間が増えていって、
知らない間に、どんどん遠い人になって、
離れていくのが怖かった。


心の底から愛する人が、この世界から消えることが怖かった。

愛する者が消えてしまったら、この世界に、本当に一人になってしまう。

だから、幼き日の記憶を、そのまま置いときたい。
塗り替えたくない。
それがないと、私は立てない。


知るのが怖いの。
環境が変わったからではなく、自分が変わってしまったからだったら?
もう一生、人を愛せない身になってしまっていたら?

もう自分は一生誰も愛せないと、知りたくなかった。
誰も愛せない人間になってしまったと知るのが怖かった。