10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

94- 後悔


あの日に戻って、ありがとうとごめんねと大好きを言いたい。


何も言わずに出てきてしまったこと。
伝えられなかった、本当の思い。

みんなが大好きだったから。
悲しい空気にさせたくなかったから。
信じたくなかったから。



友だちに、習い事の先生に、友だちのお母さんお父さんに、
小さい時から、たくさん愛を注いでくれた人々に、
ちゃんとさようならを言えばよかった。
何も言わずに出て来なければよかった。

なんで何も言わずに出てきてしまったのか。
あれだけ可愛がってもらって、大切にしてもらって。
自分にとってどうしようもないほど大切な人たちなのに。大好きなのに。
死ぬほど後悔した。
文字通り死ぬほどの後悔だった。