10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

95- 時間が止まる


あの日から、時間が止まってしまっている。

幼き日々の、音も空気も香りも色も表情も全部覚えていた。
鮮明に。
まるで、昨日起きたことのように。

学校の校庭も、太陽の光を反射する砂も、裏庭に咲き誇る桜も、みんなが集まるくつ箱も、明るい茶色の教室の床も、

ベランダからの景色も、川の字で寝ていた和室も、押し入れに詰め込んだおもちゃも、クリスマスの飾りも、エアコンのにおいも、

にぎやかな車の中も、冷房が効きすぎているスーパーも、ピクニックに行ったテーマパークも、そこで流れてる音楽も、緑が映える広場も、

走り回ったアスファルトも、通い慣れた通学路も、街路樹も、ぶら下がった遊具も、花の香りも、夕方の香りも、

あれからもう何年も経っているのに、
ぼやけることはなく、
昨日起きたことのように、鮮明に思い出せる。