10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

85- いつでも気を遣ってるよね?


大学で友人に言われた一言だった。

週に3回くらいは晩ごはんをともにしたり、お互いの家で飲んだりする友人で、
大学の友人の中では、いや、このような人生を送ってきた私にとって、小学校を卒業以来出会った人の中では、深い付き合いの人だった。

その日も家で一緒に鍋をしていた。鍋の材料をキッチンから運んでいた。

「どこにいても誰といても、ずっと気を遣ってるよね」

その瞬間に友だちが言った一言に、ハッとした。衝撃を食らった。
何気ない言葉が、ずっしりと胸の底に残り続けた。


私にはたぶん、自分を演じてしまう癖がついている。
そうしないと、生き抜いてこられなかったんだ。
生きるためには、自分を押し殺して、演じるしかなかったんだ。
すでに出来上がったコミュニティの中で、受け入れてもらうために、認めてもらうために。
自分の存在を。