10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

146- 十数年経ってもそれでもまだ…


どうして私は、こんなにも引きずっているの?
もう16年も経つのに、どうして?
喉から手が出るほど触れたくても、もう戻らないんだ。

転校というよくある話で、
なぜ自分はここまで敏感に繊細に感じ取って、深くトラウマになったのか?
もっと鈍感だったら、世の中の何事に対してももっと鈍感だったら、
家族を傷つけずに済んだかもしれないのに。
家族の夢を、しあわせな時間を、壊さずに済んだかもしれなかったのに。

なぜこんなに、あの時の影響を受けているの?


145- 記憶


幼稚園の帰りに母と手を繋いで寄った公園も、
父と母に手を握られ、真ん中でジャンプしていた歩道も、
ふざけながら帰った通学路も、

この香り、どこかで感じたことがある気がする…
その季節の香りがトリガーとなって、ふとした瞬間に、
まるで昨日のことのように、鮮明に思い出す。

そして、
心が、心臓が、
なんとも言えない痛みに襲われる。




144- 小さい頃から自分を知ってくれている人


転勤族の子どもである私には、幼い頃から自分を知ってくれている人がいない。

今は、祖父母と両親が、小さい頃から自分を知ってくれているけれど、
時間が経つと、小さい頃の自分を知っている人が、この世界からいなくなっていく日が来るのだろう。
そう、この世界に、誰もいない。何もない。


143- 両親が心配



例えば、両親が還暦のお祝いをいつか迎えたとして、
それを友だち家族と祝うなんて事もない。
お祝い事も、自分たちだけで。
大変なことがあっても、自分たちだけで。

この先両親がもっと年老いていった時に、どうするのか。
地域に、近くに、頼れる人なんていない。

あの街にいた頃は、あんなに友人家族がいて、母が寝込んでも、助けてくれる人がたくさんいたのに、
よくお母さん同士でごはんに行ったり出かけたりしてたのに、
そういうつながりが、一切ない。

そりゃそうだ。
子どもがうまくいかなかった場所を、大切な子どもを苦しめた場所を、好きになれるはずない。
両親から、交流の機会を奪ったのは私だ。




142- 共生


この感情とは、
一生この気持ちを持ったまま生きていくんだと思う。

どれだけ居心地の良い環境にいて、どれだけ楽しくても、
心を突き刺すような一種のさみしさのような感情は、消えない。





141- 辛いことがあった時に


本当に辛い時に、
命の灯火が消えそうな時に、
電車に飛び込んでしまいそうなほど辛い時に、
涙でいっぱいの時に、
ぎゅっとしてくれるような、温かい場所がないのだ。
帰りたい。

どこに帰るの?