10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

71- もう帰れない


小学校の同級生が、時々会おうよと声をかけてくれた。
でも、
もう帰れないんだ。私は。

何も言わずに出てきてしまったことの申し訳なさと後悔と、
さみしさと悲しさのショックで、会いたくないし帰りたくない。
全部、
あの時のことは楽しかった時のことはすべて忘れてしまいたかった。
そうしないと、新しい場所で生きていけないから。

前を向いて、やっていかなきゃならないから。
新しい場所で、生きていかなきゃいけないから。
記憶に足を取られて、次の場所へ進めないことになっちゃてはいけないから。

帰ると、会いたくなっちゃうから。
会うと、帰りたくなっちゃうから。
温かいその場所に、いたくなっちゃうから。