10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

84- 大学生になっても


大学に入学して。
13歳の子どもの時から、温かい地元ではなく大人の社会で生きてきた私にとって、自然な自分でいることはとても難しかった。

どんなに仲良くなっても、どんなに相手がこちらに寄ってきてくれても、それでも、感じるままの自分を曝け出すことができなかった。

恐怖を感じているわけではない。
嫌だと思っているわけではない。
本当は、飛び出して行きたいと思っている。

それでも、なにかが邪魔をして、できない。

頭で考えても、できないのだ。
心で感じても、できないのだ。
毎日が楽しくても、それでも、透明な何かにバリアされ、できないのだ。
本心の私でいるということが。
昔はできていたはずなのに。

透明なバリアを人に作ってしまうことを、申し訳なく思う。