10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

89- 地元



ずっと同じ場所から出たことのない人とは付き合わなかった。
地元最高みたいな話は苦手だ。 

井の中の蛙だと。もっと世界は広いのに。いろんな価値観があって、いろんな生き方があって、おもしろい人がたくさんいて。
外に出ないなんてもったいない。


ちがうんだ。

もう手に入らないんだ。
自分がどれだけ望んでももう手に入らないものだから。

そして、ただ憧れているんじゃないんだ。
憧れでほしいと言っているんじゃないんだ

本当はその温かさを知っている。
でも失った。
だから、嫌なんだ。苦しくなるから。