10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

29- 小学生の、最初で最後のうそ


誰にも何も言わないという私の意思が尊重され、学校ではみんなへの通達はされなかった。
しかし、となりのクラスで、卒業式の最後に、私が転校することが先生から伝えられたらしかった。
卒業式のあと、最後の通学路で、となりのクラスの友だちに会う。
「転校するって先生が言ってたけど、何かのまちがいだよね?」
「うん、何かのまちがいだと思う」
「よかった!春休みもあそぶ約束してるもんね!」
ギリギリのところで、精一杯の悲しい嘘をついた。


言えなかった。
泣いてしまいそうで。
大好きな友だちの前で話したら泣いてしまいそうで。

言葉にしたら、みんなと一緒にいられなくなることが本当になってしまいそうで。
そんなの、いやだ。