10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

67- 大好きなみんなといたかった


ただそれだけだった。

ほんとは、本当は、みんなに言えなかっただけなんだ。
連絡を取りたくなかったんじゃない。
引っ越すことを知られたくなかったんじゃない。
みんながどうでもよかったんじゃない。
みんなが、みんなのことが、大好きだったんだ。

だから、みんなといられなくなるなんてそんなことないって、
言ったらみんな悲しむから、楽しく遊んでる最中にみんなのそんな顔見たくないから、
言ったら私が泣いてしまいそうで、
でもみんなにそんな顔見せたくなくて、少しでも一緒に笑っていたくて、
言ってしまったら本当になってしまいそうで…

だってそれもこれも、みんなが大好きだから!
でも…
けっきょく「さようなら」も「ありがとう」も言えずに出てきてしまった…愛する街を…
本当は、大好きだったんだよ。
みんなといたかったんだよ。