10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

65- この環境で生き残っていくために


誰も知らない環境で、ある程度関係性ができている中に新しく入って生き抜いていくためには、
瞬時にその場の人間関係の力バランスを見極める。
そして自分がどういうポジションで、どういうキャラで、どう振る舞うべきなのかを判断する。
その人が求めているものは何かを見極め、言ってほしい言葉をかける。

以前から知っている人がまったくゼロな私にとって、
いざという時に助け舟が出ることがないとあらかじめわかっている私にとっては、
今、目の前にいる集団に馴染めるかいなかが勝負だ。
今、目の前にいる人と関係を結べるかがすべてだ。
今、目の前にいる人と関係を結べればそこから輪が広がっていく可能性もあるが、
今、目の前にいる人との関係がだめになっちゃったら、その人の周りもだめになっていく。
だってその人とその人の周りは、私がこの場所に来るよりもずっと前から関係があるのだから。
だから今目の前の人と関係を築けなかったら、どんどん孤立が深まっていくのだ。今目の前にいる人と関係を作れるかどうかに、すべてがかかっているんだ。

だから、その人のほしい言葉をかけるんだ。
そこに”自己” が入る隙間はない。
自分の色というものを入れている場合じゃない。
今、目の前のその場が勝負なのだ。
ここでだめだったら次はない。
待ち受けるのは、死だ。

グループの中の人が嫌いだったとしても、自分が生きていくためには、付き合い続けるしかない。
嫌いな相手と上手くやれなくなっても、嫌いな相手には小学校の時からの見方がいるが、私にはいない。
新しいグループに入ろうにも、グループは固定されていて、グループを追い出された人に向けられる目は厳しい。
そう簡単には迎え入れられないのだ。ましてやどこぞの骨ともわからない人を。

グループ内の誰かとうまくいかなくなると、相手には別のグループに小学校の時からの知り合いがいる。
数に勝てない。
そうするともう、私がいられる場所はなくなってしまうのだ。

理不尽な理由で、火のない所に煙が立つのが中学校の女子だ。

わかるかいこの命がけの日々が。




自分を押し殺して、人が求めていることを言う。それが当時まだ13歳の私が新しい場所で生き残るための必死の戦略だった。

自分というものを押し殺し。
そのうち、だんだん感じなくなっていく。