10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

133- 普通への憧れ


自分がどれだけ馴染もうとしても、よそ者だった。
周りは小さい時からずっと一緒に過ごしている。
これまで共有してきた時がちがう。
みんなと同じにはなれない。

だから、普通になりたい、大多数と同じ側にいきたい、
なぜなら、疎外感を感じたくないからー
そんなことを思って、ずっと“普通”に憧れて生きてきた。
“みんなと同じ側”に行きたかった。

自分は自分と、going my wayに進めたらいいのだろうけれど、私にはそれはできなかった。
転校してから、ずっと普通への憧れにとらわれている。


132- 最近見た夢


大人になってから見た夢で、最近見た夢で。

広い古民家のようなところにいて。
床や柱は焦げ茶色。
照明は少し落とし目で。

そこには、新しい家具があって。
そろえられた家具とインテリア。
きっと誰かのために、誰かを想ってそろえられた品々だ。

そんな期待は裏切られて。
私は泣いていた。

そう、あの時の後悔と同じー
あの時の記憶と同じー


130- 今でも怖いの


ちがうの、ちがうの。
もう失いたくないの。
怖いの。

これ以上、深く入っていって、深く好きになってしまったら、失うことが怖い。
深く知っていって、途中でうまくいかなくなって、だめになって、それで自分が傷つくのも怖い。

まだ、傷は癒えてない。
本当は、怖くて怖くて仕方いなんだ。
自分の大切な人が、周りからいなくなることが。

物理的に、お別れが来て、会えなくなるのも、
人間関係にヒビが入って、会えなくなるのも、
どちらにせよ、失うことが怖い。
あの時のように、たくさん愛して、どうしようもない喪失感に襲われるのが怖い。
そうなる前に、お別れが来る前に、自分から、その場を出ていく。

苦しい。
失うことの怖さが勝ってしまう。
安心できる人を、失いたくない。
失うくらいなら、早めに自分から離れていった方がいい。
その方が、のちのち立ち直れなくならなくていい。

怖い。
一度それで立ち直れなくなっているから。


また。
あの街に引っ越した時のように、誰のことも好きだと思えなくなったら。
今好きだと思っている人たちのことも、嫌いになってしまったら。
またあの時みたいに、一人になったら。
360°、世界から誰もいなくなったら。
真っ暗な孤独の底に落ちたら。
愛する人たちと突然の別れがきたら。