10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

7- きみに惹かれて


ぼくはきみが人と仕事をする姿を2年弱くらい見てきているけれど、きみは誰とでも気持ちよく仕事をする。
いつも明るい表情と声をしていて、誰からも受け入れられ、好かれる。
そりゃそうだ。
誰かを攻撃するような言葉を投げることはしないし、卑屈になるようなこともない。
誠実に対応している。
きみは誰に対しても丁寧に接するし、まなざしが優しい。
情緒が安定している大人だ。
きっとこれまで、不登校になったり、いじめられたり、家庭環境が苦しかったり、
そんなことはなく、周りから大切に愛され育ったのだろう。
太陽のような明るいエネルギーに満ちている。


でも何だろう。
陽のエネルギーだけじゃない。
何か惹かれるものがある。
どこか、何か。深いところで。

きみはよく物事の表面だけではなく、本質を見抜いているように見える。
きみはあえて口には出さないけれど。
実年齢より大人な雰囲気に感じるというか。
実際きみは、4, 50代のいろいろ経験してきた人たちと同等の深さで話をしているように見える時があるんだ。

「きみは物事の本質を見ているように見える…どんな人生を送ってきたの?」

きみはフッと大人の笑顔を見せる。
「え?普通の人生だよ?」

「だってきみはいつでも穏やかで明るく見えるのに、本当はもっと深いところでものを見て、考えてるよね?そんなきみを作り上げているものを知りたいんだ」

きみはまた大人の笑顔を見せる。
きっと本当のことは話してもらえない。
直感的にそう悟った。

「まだ、話せるほど大人になっていないから」