10年ごしの時間旅行(小説)

子どものころ両親の仕事の都合で転校を経験した少女の物語。「カテゴリー:プロローグ」からお読みください。

6- 都会が好きなきみ


きみは、ずっと同じ場所、つまり同じコミュニティにこもっているのが好きではない。
2年おきに引っ越しているらしい。
いろんな世界に入るのが楽しいと。
きみの周りには、海外で生活している人や、ノマド生活を送る人や、そんな人たちがたくさんいる。

ぼくは、彼女が転職する前にした会話を思い出していた。

「配属先、都市部だったらいいな〜」
「田舎もゆっくりできていいかもよ?」
「うーん、私は都会で働きたいな」
「どうして?」
「んー私の経験の中からだけど、都会の方が色んな人がいて色んな価値観に出会えてさ。何年もずっと同じ場所にいたくないというか、同じ環境に身を置いておきたくないというか…」

きみは同じ場所に住むのを嫌がった。

「ずっと同じ環境にいて、ずっと同じ人たちといるだなんて、そんな窮屈、耐えられない。その場その場で、行ったその先で、必要な人間関係を築けばいい。何にも縛られずに、自由に。そんな暮らしを送りたいの」

普段人とのつながりを大切にしていて温かいきみからすると意外で、その辺りはさっぱりしている。少しさみしさを感じるような、儚さを感じるような…